「化学工学会での優秀ポスター賞受賞者」

 去る平成18年9月17目に福岡大学にて開催されました、化学工学会第38回秋季大会において、平成18年度バイオ部会学生ポスター発表会が企画されておりました。しかし、この度台風13号が九州に上陸致しました影響により、発表が中止となり、事後評価を余儀なくされましたこと、深くお詫び申し上げます。
審査委員の先生方のご協力のもと、皆様から送付頂きましたポスターについて、電話インタビューを含む厳選なる評価を行わせて頂きました。その結果、全件の応募者より下記の7名がバイオ部会優秀ポスター賞として選ばれましたので、ここにご報告致します。


受賞者:

[環境分野]
大阪大・森岡こころ 『水生植物のコンポスト化反応を再構成できる2種の微生物について』
静岡大・鈴木伸章 『チンゲンサイの病害を防除する機能性コンポストの製造』

[セルカルチャー・分離・その他分野]
大阪府立大・松田美由紀 『水力学的フィルトレーションを利用した血球細胞の分離』

[酵素分野]
神戸大・沼田崇男  『Whole cell biocatalystによるバイオディーゼル燃料生産』

[メディカル分野]
北九州市立大・堺裕輔 『微細加工・表面化学修飾基板を用いた肝細胞スフェロイドアレイ』

[プロセス・情報分野]
九州大・毛利剛 『電子伝達系タンパク質の安定化によるP450camシステムの触媒効率の向上』

[ナノテク・分子分野]
九州大・高田晴美 『DNAのハイブリダイゼーションを駆動力とした固定化脂質ベシクルの融合』


受賞者の所属
 

森岡 こころ

大阪大学大学院 工学系研究科 生命先端工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  水生植物のコンポスト化反応を再構成できる2種の微生物について
  現在、環境への負荷の少ないコンポスト化による廃棄物処理が注目されている。一般のコンポスト化ではセルロースは難分解性であるが、本研究の水生植物を原料としたコンポスト化では、反応初期からセルロースの良好な分解が確認された。そこで、水生植物のコンポスト化においてセルロース分解に関与する微生物の解析・単離、及び単離菌を利用したセルロース分解の促進を試みた。
 水生植物に土着の微生物の集積培養を行うと、主要炭素源であるセルロースと微生物の集合体が形成された。これを原料に添加したコンポスト化では、対照と比較してセルロース分解が促進された。TGGE等による解析の結果、 Thermobifida fuscaがセルロース分解に大きく寄与することがわかり、原料にT.fuscaを添加した場合、対照と比較してコンポスト化が促進された。一方、γ線滅菌した原料にT. fuscaのみを添加してもコンポスト化はほとんど進行しなかった。そこでT. fuscaの働きを助ける微生物の単離を試みた結果、セルロース非分解菌Ureibacillus thermosphaericusを共存させるとコンポスト化が促進されることがわかり、これら2種の微生物によってコンポスト化反応を再現できた。

▲TOP]  [▲HOME


受賞者の所属
 

鈴木 伸章
静岡大学大学院 工学研究科 物質工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  チンゲンサイの病害を防除する機能性コンポストの製造
 

 コンポストにバイオ農薬の効果を持たせ、機能性コンポストとして用いることができれば、化学農薬の使用量を低減できる。本研究では植物病原菌に対する抑制菌をコンポスト中で高濃度に増殖させることによって機能性コンポストを製造する方法を検討し植物病害の防除効果を確めた。
 植物病害としてチンゲンサイ尻腐病を対象にし、病原菌Rhizoctonia solaniチンゲン2株に対する抑制菌としては、当研究室で単離した細菌B. subtilis HBII株と糸状菌GP1株の2種類を用いた。コンポスト化条件としてコンポスト原料、雑菌濃度を低減するための熱処理、および抑制菌を高濃度に増殖させるための温度とその温度を維持する時間を様々に検討し、抑制菌を高濃度に含む機能性コンポストを製造した。製造した機能性コンポストを用いて植物試験をおこなったところ、HBII株を含むものは土壌中で安定した効果を示さず、一方GP1株を含むものは発病度をほぼ0%に抑制し、顕著な病害防除効果のあることを確めた。細菌と糸状菌では生育条件が大きく異なるので、病原菌である糸状菌の活性が高い土壌中にあっては、抑制菌も糸状菌を使用した方が高い防除効果を望めることがわかった。

▲TOP]  [▲HOME


受賞者の所属
 

松田 美由紀
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻

受賞したポスターの研究内容
  水力学的フィルトレーションを利用した血球細胞の分離
 

 血液検査や血液製剤の調整などの医療プロセスや生物学的研究において、血球の分離は非常に重要な操作である。以前、本研究室ではマイクロ流体デバイスを用いた新しい微粒子の分離・濃縮方法「水力学的フィルトレーション」を提案した。本研究ではこの方法において押しつけ液を利用することにより、血液を導入するだけで赤血球と白血球の高精度な分離・濃縮を可能とするマイクロ流体デバイスの開発を行った。
 入り口を二つ設け、メインとなる流路の側面に多数の分岐流路を有する流路構造を持つマイクロ流体デバイスをレプリカモールディング法により作製した。材料として,シリコーンポリマーの一種であるポリジメチルシロキサンを用いた。一方の入り口から生理食塩水を用いて10倍に希釈した血液を、他方の入り口から生理食塩水をそれぞれ連続的に導入することにより、分岐流路をもつ壁側に血球を押しつけ、赤血球と白血球をほぼ100%分離することに成功した。また、白血球においては数十倍の濃縮も確認できた。血球の処理速度は約75,000個/secと既存のセルソーターシステムを超える速度であり高速かつ正確な分離・濃縮が実現されたものと考えている。

▲TOP]  [▲HOME


受賞者の所属
 

沼田 崇男
神戸大学大学院 自然科学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Whole cell biocatalystによるバイオディーゼル燃料生産
   原油価格の高騰が深刻な現在、油脂とメタノールの反応により得られるメチルエステルは、軽油に代替可能なバイオディーゼル燃料(BDF)として注目されている。我々の研究室では、環境調和型ではあるが高コストなため実用化に至っていないBDF生産法『酵素触媒法』の実用化に向け研究を進めている。
 本研究では、酵素の調製コスト削減のため、リパーゼを生産する糸状菌を担体粒子に固定化し、これをwhole cell biocatalystとして用いる、植物油からの安価なBDF生産を検討した。Whole cell biocatalystを用いて工業的規模でBDF生産を行うには連続的な反応系が有利なため、高反応率を長期間維持でき、連続反応が可能な系の構築を目指した。従来の振盈法の代わりに充填層型カラム反応器を用いた繰り返し反応を行い、10サイクルに及ぶ長期間の反応後も80%以上の高い反応率の維持に成功した。また、位置特異性の異なる酵素を利用した反応系の検討も行い、95%程度の反応率を得ることができた。
 以上の結果より、whole cell biocatalystを用いた反応は実用的なBDF生産に向けて有用であることが示唆された。

▲TOP]  [▲HOME


受賞者の所属
  堺 裕輔
北九州市立大学大学院 国際環境工学研究科 環境工学専攻
受賞したポスターの研究内容
  微細加工・表面化学修飾基板を用いた肝細胞スフェロイドアレイ
 

 肝細胞のマイクロパターニング技術は、創薬や基礎研究などにおける細胞チップとして期待されている。また、従来の単層培養法では速やかな機能の低下や消失が見られるのに対し、数百個の肝細胞が集合・凝集化した球状細胞組織体(スフェロイド)は、高機能発現を長期的に維持できる培養法であり、細胞チップへの利用が期待されている。しかし、スフェロイド粒径や形成場所の制御、固定化が難しいなどの問題を抱えている。そこで、本研究は、均一な粒径の肝細胞スフェロイドを基板上で高密度にアレイ化する肝細胞スフェロイドアレイの開発を目指した。
 微細加工技術を利用して、数百個のマイクロ培養空間(直径300μm)が規則的配列されたチップ基板を作製した。各マイクロ培養空間の底面中心部(直径100μm)は細胞接着分子であるコラーゲン、その他の部分は非接着部位であるPEGをプリンティングすることで細胞の接着性を制御した。本チップを用いることで、スフェロイド粒径が均一に制御され、高密度にアレイ化・固定化できることを見出した。また、タンパク質分泌や薬物代謝などの肝機能を少なくとも2週間以上良好に維持することを実証し、有望な細胞チップ技術となりうることを示した。

▲TOP]  [▲HOME


受賞者の所属
 

毛利 剛
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  電子伝達系タンパク質の安定化によるP450camシステムの触媒効率の向上
 

Pseudomonas putida由来のシトクロムP450cam (P450 cam)及びその変異体の触媒する酸化反応は、不活性のC-H結合にOH基を導入する有機反応上有用な反応であり、生物変換反応や創薬分野への応用が期待されている。P450camシステムは、Putidaredoxin Reductase (PdR)、 Putidaredoxin (Pdx)、 P450camの3つのタンパク質成分からなり、補酵素NADH→PdR→Pdx→P450cumという電子伝達により、分子状酸素の活性化を介して基質酸化が進行する。P450camシステムの触媒効率は電子伝達系の効率に依存し、特にPdxはタンパク質間で電子を媒介するため重要なタンパク質である。しかし、Pdxは容易に失活しやすいことから、安定性が向上した変異体を用いて、効率的な触媒反応への応用を試みた。
 その結果、変異型Pdxを用いた場合に野生型Pdxでは達成できなかった2mMのcamphorの完全転化が可能で、継続的に反応が進行する結果が得られた。

▲TOP]  [▲HOME


受賞者の所属
 

高田 晴美
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  DNAのハイブリダイゼーションを駆動力とした固定化脂質ベシクルの融合
 

 近年、DNAは遺伝情報の保持・伝達という本来の役割を超え、核酸の塩基配列による相補鎖との特異的結合能といったDNAの持つ特性をもとにしたナノサイズの材料としての利用が注目されている。そこで、本研究ではDNAのハイブリダイゼーションを駆動力として、脂質ベシクル同士で会合体を形成し、これが融合体へと変化することを視覚的に観察する方法を検討した。脂質ベシクルの内水相部には様々な物質を封入することが可能であるうえ、その空間は微小な反応場としても利用できる。この性質により、本研究ではべシクル融合時の内水相部でおこる酵素反応を利用し、それにより生じる蛍光を蛍光顕微鏡で観察することで、融合現象を視覚的に評価した。
 研究当初は、脂質ベシクルが溶液中を分散している状態でDNAのべシクル膜表面への導入と会合体形成を行っていた。その結果、ベシクル融合体が三次元的に拡大した会合体の中に埋もれてしまい観察が困難であった。そこで解決策として検討したのが、脂質ベシクルをマイクロプレートに固定化する方法である。これにより、余分なべシクルやDNAの除去が可能になるため、会合体の拡大を制限することができると予想された。結果、マイクロプレート上に蛍光が確認され、ベシクル融合体の視覚的な観察が容易になった。

▲TOP]  [▲HOME


Copyright (C) Division of Biochemical Engineering, The Society of Chemical Engineers, Japan