「化学工学会での優秀ポスター賞受賞者」

  去る平成19年9月14目 (金)北海道大学にて開催されました、化学工学会第39回秋季大会において、平成19年度バイオ部会学生ポスター発表会が開催されました。その結果、全件の応募者より下記の7名がバイオ部会優秀ポスター賞として選ばれましたことを、ここにご報告致します。
 尚、下記7名の受賞者より、簡単にではございますが、研究の紹介をして頂きました。どうぞ、ご覧下さいませ。

受賞者:

新潟大学大学院 石山洋平
『乳酸菌バクテリオシンによる清酒製造工程における火落菌の殺菌法の開発』

九州大学大学院 田原義朗
『薬理活性タンパク質の新規投与ルートの開発』

大阪府立大学大学院 土山祥太郎
『有機溶媒耐性PST-01プロテアーゼのペプチド合成活性の向上と基質特異性の変化』

九州大学大学院 鶴田幸人
『プロテアーゼの分子認識による酵素活性のスイッチング』

九州大学大学院 菱ヶ江明
『スギ花粉症治療のためのアレルゲンエピトープ含有タンパク質の生産』

早稲田大学大学院 松川裕章
『透析患者の血中NO濃度を測定する新規デバイスの開発』

九州大学大学院 松本欣也
『酪酸ナトリウムを用いたES細胞から肝細胞への分化誘導と人工肝臓への応用』


受賞者の所属
 

石山洋平
新潟大学大学院 自然科学研究科 材料生産システム専攻

受賞したポスターの研究内容
  乳酸菌バクテリオシンによる清酒製造工程における火落菌の殺菌法の開発
  清酒製造工程において、しばしば『火落ち』と呼ばれる清酒の腐敗現象が起こる。この『火落ち』現象はエタノール耐性乳酸菌によって引き起こされ、清酒の品質や風味の劣化をまねく深刻な問題である。そこで、乳酸菌が生産する抗菌物質であるバクテリオシンを清酒製造工程において利用し、清酒の火落ちを防止することに着目した。
 本研究ではバクテリオシンによる火落菌の殺菌法を開発することを目的とした。そのために、火落菌に対して抗菌活性を持つバクテリオシンを生産する菌株の選抜を行った。また清酒製造で利用可能なバクテリオシン溶液の調製法を検討した。さらに、調製したバクテリオシン溶液の火落菌に対する増殖抑制効果についても検討した。
 各乳酸菌上清液の抗菌スペクトルを調べた結果、火落菌に対して抗菌活性を示すバクテリオシンを生産する乳酸菌として6菌株を選抜できた。また麹汁に米タンパク質加水分解物を添加した培地を用いることによって、バクテリオシンを生産させることができた。すなわち、清酒製造において利用可能なバクテリオシン溶液を調製できた。さらに清酒の酒母工程を想定した条件において、バクテリオシン溶液は一部の火落菌の増殖を阻害することができた。

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受賞者の所属
 

田原義朗
九州大学大学院 工学研究院 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  薬理活性タンパク質の新規投与ルートの開発
 

 近年、インスリンやヒト成長ホルモンをはじめとする薬理活性タンパク質が医療現場で大きな成果を上げている。しかしながら、その体内への投与はタンパク質が本来有する生分解性のため、現在でも注射による投与が一般的である。本研究では、これらの注射でしか投与できないような薬理活性タンパク質を、塗り薬に変えるための技術開発を行っている。ここで塗り薬のように皮膚を介して体内に薬物を送達することを、経皮デリバリーという。
 タンパク質の経皮デリバリーにおける大きな問題として、皮膚表面が疎水性の高い構造をしているのに対し、タンパク質は親水性の物質であるため、タンパク質をその水溶液の状態で皮膚に塗布しても、皮膚浸透性は非常に低いということが挙げられる。そこで我々は本研究室で開発されたSolid-in-Oil(S/O)化技術によって、タンパク質を界面活性剤で被覆し油中に分散させると、その皮膚浸透性が向上すると考えた。
 今回我々は蛍光ラベル化インスリンをS/O化技術によって油中に溶かすと、その水溶液に比べて皮膚浸透性が向上することを示し、本手法を利用した薬理活性タンパク質の経皮デリバリーが実現可能であることを確認した。

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受賞者の所属
 

土山 祥太郎
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻

受賞したポスターの研究内容
  有機溶媒耐性PST-01プロテアーゼのペプチド合成活性の向上と基質特異性の変化
 

 有機溶媒耐性微生物Pseudomonas aeruginosa PST-01株は有機溶媒安定性に優れたPST-01プロテアーゼを産生する。本酵素を用いてアスパルテーム前駆体の合成反応を行ったところ、立体構造が非常によく似ているサーモライシンを用いた方が反応速度は速かった。そこで、本研究では、PST-01プロテアーゼの活性中心付近に存在するアミノ酸を他のアミノ醸に置換し、アスパルテーム前駆体の合成反応において高い活性を有するPST-01プロテアーゼの作製を試みた。
 PST-01プロテアーゼとサーモライシンの活性中心付近の構造比較からPST-01プロテアーゼのTyr-114をPhe、 Ile-190をValに置換した酵素を用いて、アスパルテーム前駆体合成の反応速度を測定した。その結果、Tyr-114をPheに置換することにより反応速度は約2.7倍になった。さらにTyr-114をAlaに置換することにより、反応速度が約7倍、サーモライシンの約2.2倍に向上した変異酵素の取得に成功した。また、作製した変異酵素のジペプチド合成反応の基質特異性を検討したところ、変異よりも用いた基質の違いによって反応速度が大きく異なっていた。

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受賞者の所属
 

鶴田幸人
九州大学大学院 応用化学部門 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  プロテアーゼの分子認識による酵素活性のスイッチング
   酵素の機能を担う部位に何らかの機能性分子を導入することによって外部刺激応答性を付与し、人為的な活性の制御を可能にした人工酵素の開発が行われている。このような人工酵素は、外部刺激を感受し酵素反応へと変換することが可能なので、各種センサーへの応用が期待される。本研究では、プロテアーゼの部位特異的加水分解反応を引き金として、活性がスイッチンダする人工酵素の設計を試みた。
 遺伝子工学的手法により、モデル酵素(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)の基質結合部位近傍に、微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)とプロテアーゼ(トロンビン)の基質ペプチド配列をタンデムに導入した。MTGの架橋化反応を利用して、基質ペプチド選択的に阻害剤を導入したところ、基質結合部位にて局所的な阻害剤濃度増加が生じる結果、大幅な酵素活性の低下が確認された。しかし、トロンビンを作用させた後に再び活性測定を行うと、基質ペプチド部位の加水分解反応によって阻害剤が系全体へと開放され、酵素の再活性化(スイッチング)が確認された。
 以上の結果より、特定のプロテアーゼを検出するための分子センサーの設計指針を提示することができた。

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受賞者の所属
 

菱ケ江 明
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  スギ花粉症治療のためのアレルゲンエピトープ含有タンパク質の生産
 

 現在、花粉症をはじめとするアレルギー患者は国民の30%以上となっており、若年層の予備群を含めると半数以上が何らかのアレルギーを抱えていることから、その根本治療法の確立が急務となっている。アレルギーに対して唯一の根本治療法は減感作療法と呼ばれる抗原特異的免疫療法であるが、注射による苦痛や副作用も多いので、より簡易で安全性の高い効果的な治療法が求められている。
 本研究では、免疫寛容をより効果的にするために、スギ花粉症エピトープペプチドと免疫グロブリンIgG1およびIgAのFc領域との融合タンパク質として発現するためのレトロウイルスベクターを作製し、動物細胞への遺伝子導入によってこのタンパク質の生産を試みた。ウエスタンブロット法により解析した結果、予想される分子量の位置にバンドが検出されたことから、目的のFc融合型エピトープペプチドが生産されていることが確認できた。
 今後は、本研究で開発したレトロウイルスベクターを用いて、エピトープ含有タンパク質を発現するトランスジェニックニワトリを作製し、このタンパク質を鶏卵中で生産させ、この卵を食べることによってスギ花粉症治療に使用可能かを検討していきたいと思っている。

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受賞者の所属
 

松川裕章
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  透析患者の血中NO濃度を測定する新規デバイスの開発
 

 透析患者の体内では、血管拡張の生理作用を有する一酸化窒素(NO)の産生が亢進し、低血圧の透析症例が報告されている。本研究では、透析患者の血圧変動を予測するために、血中NOを膜分離し、ルミノールと反応して生じる化学発光量を光ファイバで検出することによってNO濃度を測定する、新規デバイスの開発を目的とする。
 血液透析器の構造を模した新規デバイスを作製した。アクリルパイプ中に中空糸透析膜を設置し、中空糸内腔に血液、中空糸外腔にルミノール溶液を向流で流して、膜透過した血液中のNOがルミノールと反応する仕組みである。このデバイスを用いて、NOドナーにより牛血液中で発生したNO濃度をリアルタイムで測定した。その結果、ドナー添加後に発光強度が増加し、また添加量に応じて発光強度が変化した。およそ数十μMのNOを検出できた。透析治療中に誘導型NO合成酵素によって産生するNO濃度は、nM〜μMのオーダと考えられるため、本デバイスを用いることにより、生体内NO濃度をリアルタイムで測定できる可能性がある。

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受賞者の所属
 

松本 欣也
九州大学大学院 工学府 物質プロセス工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  酪酸ナトリウムを用いたES細胞から肝細胞への分化誘導と人工肝臓への応用
 

 本研究では、旺盛な増殖能を持ち多能性を有する胚性幹細胞(ES細胞)を細胞源としたハイブリッド型人工肝臓の開発に取り組んでいる。
 ES細胞白体は肝機能を持たない未分化な細胞であることから、本研究では肝細胞への分化誘導法として、PUF/スフェロイド型人工肝臓装置へES細胞を固定化することにより、自発的な分化を促すスフェロイドの大量形成を試みた。さらに、外部からの分化誘導因子の添加を行うことにより肝細胞への大量分化誘導を試みた。この結果、ES細胞の高密度培養に伴い成熟肝細胞を充填した人工肝臓装置とほぼ同程度の機能発現を達成した。一方、上記検討における問題点として、細胞の過増殖に伴う培養環境の悪化が生じ、細胞増殖制御とさらに効果的な肝分化誘導法の必要性が示された。そこでES細胞の分化に有効であり、かつ細胞増殖を制御しうる因子として酪酸ナトリウム(SB)に注目し、その添加濃度と添加時期について最適化を試みた。その結果,細胞増殖を制御しつつ肝機能の発現が可能な培養条件を確立した。
 以上の結果、本研究はES細胞を細胞源とした人工肝臓開発において有望であることが示された。

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