「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

  去る平成21年9月18目 (金)広島大学にて開催されました、化学工学会第41回秋季大会において、平成21年度バイオ部会学生ポスター発表会が開催されました。その結果、全件の応募者より下記の6名がバイオ部会優秀ポスター賞として選ばれましたことを、ここにご報告致します。
 尚、下記6名の受賞者より、簡単にではございますが、研究の紹介をして頂きました。

受賞者:

名古屋大学大学院 蟹江 慧
『医療機器被覆のための機能性ペプチドの探索』

大阪大学大学院 嶋内直哉
『リポソームによるアミロイド多形性の制御』

大阪大学大学院 菅 恵嗣
『生体膜干渉効果を利用したin vitroGFP発現のon/off制御』

静岡大学大学院 三本紘士
『土壌中で植物病害を防除可能な機能性コンポストの製造』

九州大学大学院 山本泰徳
『機能性磁性ナノ粒子を用いた筋組織構築法の開発』

九州大学大学院 山田紀子
『スギ花粉症治療のためのエピトープ含有タンパク質を生産する遺伝子導入ニワトリの作製』


受賞者の所属
 

蟹江 慧
名古屋大学大学院 工学研究科 化学・生物工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  医療機器被覆のための機能性ペプチドの探索
   再生医療の分野において,細胞の接着・増殖に関与している足場は重要である.特に幹細胞培養などでは,無血清・低血清培地での培養が求められており,それに伴い細胞接着誘導活性を有する様々なペプチドが,現在までにRGD 配列など,多数発見されている.
 細胞外マトリックス(ECM)は細胞の接着・増殖・遊走・分化に深く関わっており,我々はこの分子中のペプチドが細胞に特異的な性質を持つのではないかと仮説を立てた.そこで本研究では,細胞特異的な細胞接着ペプチドを探索することを試みた.
 今回はその1 例として,血管内のECM に着目した.現在,先進国では心疾患や脳卒中などの,循環器系疾患が死因の大半を占めており,これらの心臓病の治療法には,人工血管や,ステントなどの医療機器が使用されている.しかし,医療機器の生体適合性が低いと,血管狭窄などを引き起こし,治療効果が激減する.この原因は,平滑筋細胞(SMC)の過増殖や,内皮細胞(EC)の不接着などが考えられている.
 そこで我々は,血管構築・模倣を目指した,細胞特異的接着ペプチドの探索を基底膜の構成主成分であるコラーゲンIV から試みた.

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受賞者の所属
 

嶋内直哉
大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学領域

受賞したポスターの研究内容
  リポソームによるアミロイド多形性の制御
   Alzheimer病(AD)・狂牛病などの疾病は、原因タンパク質の構造異常化と多様な形態のアミロイド形成に伴う細胞毒性の誘導に起因すると考えられている。最近では酸化ストレスなどによる生体膜の劣化損傷と疾病との関連性が注目を集めている。当研究室では、生体膜の潜在的機能の解明と活用を目指すMembrane Stress Biotechnology に基づいてアミロイド形成現象を検討している。アミロイド形成が晶析の特徴を多く有する現象であり、モデル生体膜(リポソーム)上で誘導されるアミロイド形成は、膜特性により制御可能である(『生体膜晶析』と定義)。現在、生体膜晶析の観点から、アミロイド形成やAD を捉え直そうとしている。
 AD に見られるアミロイドの形態の多様性は晶析における多形現象と考えられる。本研究では、リポソームが多形現象にどのような影響を与えるかを検討した。酸化劣化リポソーム共存条件下で形成したアミロイド線維の断片化過程を検討した結果、アミロイド伸長に不利な核は迅速に形成されやすく、その線維は破砕されやすいことが観察された。さらに、伸長に不利なseed (核)の伸長実験を繰り返すと、伸長に有利な核ならびに線維が出現した。これは、不安定多形から安定多形への多形転移の一例と思われる。
 これらの結果から、(モデル)生体膜の組成変化により多形転移が誘導され、その毒性変化も予想される。AD をはじめとするタンパク質の構造異常性疾患の根本治療、予防に役立つものと期待される。

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受賞者の所属
 

菅 恵嗣
大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻

受賞したポスターの研究内容
  生体膜干渉効果を利用したin vitro GFP 発現プロセスのon/off制御
 

生体膜の潜在機能の活用を目指したMembrane Stress Biotechnologyの重要性が提案されている.我々は,生体膜を模倣したリン脂質二分子膜リポソームが,ストレス条件下で特定の生体分子を認識し,遺伝子発現を素過程レベルで制御している事を報告している(“生体膜干渉”と定義).本研究では,無細胞タンパク質合成系を用いてリポソームによるGFPの発現促進効果“On”および発現抑制効果“Off”について検討した.
 リポソームは組成に応じて表面電荷密度や膜流動性,不均一ドメイン形成といった様々な表面特性を有する.無細胞GFP 発現系に荷電性リポソームを添加した場合,正電荷・負電荷リポソーム共に表面電荷密度の増加に伴い,GFP量は減少した(Off効果;正電荷:〜0%,負電荷:〜80%).一方,中性リポソームおよびコレステロールドメインリポソームはGFP発現を促進した(On効果;140〜170%).GFP発現促進効果にはリポソーム相状態が影響し,液晶相の場合Folding 過程を,ゲル相の場合は転写/翻訳過程を促進した.不均一ドメインリポソームは全ての素過程を促進し,GFP発現量が最も増加した.適切に“デザイン”したリポソームによる生体膜干渉効果を活用する事で,新たなタンパク質生産プロセスの開発が期待される.

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受賞者の所属
 

三本紘士
静岡大学大学院 工学研究科 物質工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  土壌中で植物病害を防除可能な機能性コンポストの製造
   近年になって減農薬、できれば無農薬で栽培した安心、安全な農作物を食べたいと考える人たちが増えている。本研究では、コンポストに植物病害を防除する機能を持たせ、肥料と同時に農薬の役割も兼ね備えた、機能性コンポストを使用することで無農薬栽培を達成することを目的としている。機能性コンポストは病原菌抑制効果を持つ抑制菌をコンポスト中で増殖させて製造するが、ここでは、研究室で新たに単離した抑制菌GP1 株を用いてチンゲン菜尻腐病を防除する機能性コンポストの製造に取り組んだ。複数の微生物が共存するコンポスト中で接種したGP1 株を選択的に増殖させるためにはGP1株の濃度をトレースしながらコンポスト化の操作条件を検討する必要があるので、Real-time PCR法を用いてGP1株の動態を確かめることで、その操作条件を見出した。また、機能性コンポストでチンゲン菜尻腐病を防除するには、土壌中の病原菌チンゲン2株と機能性コンポスト施用によって持ち込まれるGP1株濃度の相対濃度が重要であることを明らかにし、GP1株濃度がチンゲン2株濃度の約14倍以上であれば病害を防除できることを確かめた。

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受賞者の所属
 

山本泰徳
九州大学大学院 システム生命科学府 システム生命科学専攻

受賞したポスターの研究内容
  機能性磁性ナノ粒子を用いた筋組織構築法の開発
 

 筋芽細胞を用いて作製した筋組織は、再生医療分野やアクチュエータへの応用が可能と考えられる。一般的な筋組織作製法として、人工足場材料を用いたアプローチがあるが、足場材料を使用することで、生体内の筋組織と同様な、細胞が高密度に存在し、さらに特定方向へ配向した組織を誘導することは困難であることから、未だ生体内の筋組織と同等な三次元筋組織の誘導には至っていない。そこで本研究では、足場材料を使わない新しい三次元筋組織構築手法として、機能性磁性ナノ粒子で標識した筋芽細胞を磁力で集積することで、筋繊維をin vitroで構築するための技術開発を行った。まず、機能性磁性ナノ粒子と筋芽細胞を用いて環状に筋組織を作製し、組織の収縮を留めることで組織内に張力が働き、一定方向に配向した筋組織の作製に成功した。次に、作製した筋組織の筋分化誘導を行った結果、多核化した細胞、Myogenin陽性な核を確認し、三次元筋組織の筋分化誘導に成功した。最後に、筋分化誘導した三次元筋組織に電気刺激を与えた結果、筋分化誘導した三次元筋組織は収縮応答を示した。これらより、本研究の人工筋組織は、再生医療分野やアクチュエータへ応用可能であることが示唆された。

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受賞者の所属
 

山田紀子
九州大学大学院 システム生命科学府 システム生命科学専攻

受賞したポスターの研究内容
  スギ花粉症治療のためのエピトープ含有タンパク質を生産する遺伝子導入ニワトリの作製
 

 現在, 国民の30%はスギ花粉症などのアレルギー疾患を抱えており,対症療法ではなく根本的治療法の開発が望まれている. 花粉症の根本的治療法として, アレルゲン由来のT 細胞エピトープペプチドを用いた,減感作療法に基づいたペプチド免疫療法が提案されており, 投与方法として経口投与による免疫寛容誘導法が注目されている. 我々は, これまでにトランスジェニック鳥類作製のための技術開発を行っており, 本研究では, スギ花粉症治療のためのT 細胞エピトープペプチド (7crp)とニワトリリゾチーム (cLys) との融合タンパク質 cLys-7crp を生産する遺伝子導入ニワトリの作製を行った. まず目的遺伝子が組込まれたレトロウイルスベクターを調製後、ニワトリ発生胚へ微量注入し, 胚培養により人工孵化させることで, 遺伝子導入ニワトリを作製した. 作製したニワトリ個体において, 導入遺伝子の発現解析を行ったところ, 血球細胞での発現, また組織においても心臓において最も強い発現を確認することができた. これらの結果から, 遺伝子導入ニワトリでスギ花粉アレルゲンエピトープ含有融合タンパク質の生産に成功した. 本研究で作製した遺伝子導入ニワトリは, 花粉症治療のために有用であると 期待される.

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