「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

  平成22年9月6日〜8日に同志社大学にて開催されました、化学工学会第42回秋季大会において、平成22年度バイオ部会学生ポスター発表会が開催されました。その結果、全件の応募者より下記の8名がバイオ部会優秀ポスター賞として選ばれましたことを、ここにご報告致します。
 尚、下記8名の受賞者より、簡単にではございますが、研究の紹介をして頂きました。

受賞者:

大阪大学大学院 大西 諒
『アミロイドβタンパク質の生体膜晶析:金属イオン共存効果』

名古屋大学大学院 大脇潤己
『クラスタリングを用いた効果的細胞特異的ペプチドスクリーニング』

九州大学大学院 尾上佳大
『部位特異的タンパク質修飾のための高反応性トランスグルタミナーゼ基質ペプチド配列の探索』

九州大学大学院 岸原尚也
『三次元生体組織構築のための微少流路作製法の開発』

名古屋大学大学院 佐々木寛人
『継代培養による細胞品質劣化検出技術の比較と有用性』

九州大学大学院 多田 裕
『酵素によるシグナル増幅能を利用した高感度DNAプローブの創製』

九州大学大学院 田原良朗
『新規オクタアルギニン修飾キャリアによる遺伝子デリバリー』

神戸大学大学院 漁 慎太朗
『ガラクトース転写誘導計を利用した酵母リガンド検出系の開発』


受賞者の所属
 

大西 諒
大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻 生物機能材料設計学グループ

受賞したポスターの研究内容
  アミロイドβタンパク質の生体膜晶析:金属イオン共存効果
  当研究室では、生体膜の潜在的機能の解明と活用を日指すMembrane Stbess Biotechnologyに基づいてアルツハイマー病(AD)原因のアミロイド形成現象を検討している。最近、アミロイド形成が晶析の特徴を多く有する現象であり、モデル生体膜(リポソーム)の膜特性を制御する事で、アミロイド形成が制御可能という知見を得た(『生体膜晶析』と定義)。本研究では、特に生体膜晶析に与える金属イオンの影響を検討した。その結果、アミロイドβタンパク質に銅(II)イオンを添加した系では、アミロイド形成は完全に阻害されたのに対し、酸化リポソームをさらに共存させた系ではアミロイド形成が確認された。よって、酸化リポソームに銅イオンのアミロイド阻害緩和効果がある事が示唆された。さらに、銅イオン濃度によるアミロイド形成速度の減少割合から不純物有効係数を算出し、酸化リポソームの緩和効果を定量的に示す事に成功した。特に、不純物有効係数は一般的な晶析操作の解析パラメータであるため、アミロイド形成現象も晶析操作として取り扱える事が示された。以上より、神経細胞膜の膜状態が老人斑形成の鍵となる可能性が示唆され、この結果はADや他のタンパク質構造異常性疾患の根本治療、予防に役立つと期待される。

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受賞者の所属
 

大脇 潤己
名古屋大学大学院 工学研究科 化学・生物工学専攻 生物機能工学分野

受賞したポスターの研究内容
  クラスタリングを用いた効果的細胞特異的ペプチドスクリーニング
  [緒言]近年、人工血管、人工関節といった医療機器が広く臨床応用されている。これらの人工物由来の医療機器の移植は生体適合性が低い場合、重篤な副作用を引き起こす場合もある。生体内では、細胞外マトリックス(ECM)が組織特異的に存在しており、各細胞の接着・増殖などを制御している。医療機器移植には、各組織への適合性が必要であり、特異性を持たせた生体環境の模倣が医療機器にも必要と思われる。我々は、(i)特に血管基底膜と軟骨組織に着目し、その主成分ECMであるコラーゲンIV,ll中のペプチド配列の特徴をin silicoで探索した。そして、(ii)その中から細胞特異的接着ペプチドを実験により探索した。[実験手法及び結果]本研究では(i)クラスタリング手法により、2種類の各コラーゲンに特徴的なペプチド配列を抽出し、(ii)侯補ペプチドをペプチドアレイにより合成し細胞とのアッセイを行った。(i)(ii)の探索の結果、2種の細胞を比較することで、細胞特異的接着クラスターを数種類発見した。この手法により、細胞特異性を持たせた医療機器への応用が期待される。

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受賞者の所属
 

尾上 佳大
九州大学大学院工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  部位特異的タンパク質修飾のための高反応性トランスグルタミナーゼ基質ペプチド配列の探索
 

微生物由来トランスグルタミナー(microbial transglutaminase: MTG)は、グルタミン(Q)側鎖とリジン(K)側鎖等の1級アミン間の架橋反応を触媒する酵素である。MTGは、他の多くのTGaseが必要とするCa2+を必要とせず、酵素自体が安定なうえ、低分子サイズ、高反応速度、低脱アミド活性といった特長を有している。また、現在ではMTGの大量発現系が確立されたことから、比較的安価に入手できる。当研究室では、こういりた利点をもつMTGによる架橋反応を、部位特異的タンパク質修飾技術に展開している。しかし、既往のMTG基質ペプチド配列をタグとして用いた検討では、架橋反応を効率よく進行させるためにQ基質あるいはK基質を過剰量添加する必要がある。MTGによる架橋反応を、低基質濃度で定量的に、且つ競合する加水分解に優先して進行させるには、より高い反応性を有する基質ペプチド配列の取得が必要不可欠である。そこで本研究では、ファージディスプレイ法を用いたMTGの高反応性Q基質ペプチド配列の探索および得られた基質ペプチド配列の反応性評価を行った。その結果、MTGの新たなQ基質配列を見出すことに成功し、また、そのQ基質ペプチド配列は既往の基質をはるかに凌ぐ反応性を示した。

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受賞者の所属
 

岸原 尚也
九州大学大学院工学府 物質プロセスエ学専攻

受賞したポスターの研究内容
  三次元生体組織構築のための微少流路作製法の開発
  肝臓に代表されるような酸素要求性の高い細胞からなり、厚みのある三次元生体組織を生体外において構築するためには、組織内部の細胞に十分な酸素や栄養素を供給するための血管網を作製する技術が不可欠である。本研究室では、生体と類似の血管網作製手法の確立を目指して様々な検討を行ってきた。本研究では、生体微小血管と類似の構造を有する微小血管様構造体の作製を目的としている。今回、我々は動物細胞を内部に包括可能な中空ヒドロゲルファイバー作製手法を応用し、微小血管様構造体作製に関する検討を行った。具体的には、中空アルギン酸−ゼラチンゲルファイバー作製の際の操作因子がファイバーの中空径および外径に及ぼす影響の調査、またファイバーの血管様構造体構築用足場材料としての可能性の評価を行った。2種の操作因子(中筒先端内径およびCore volume ratio)を変化させることにより、中空径および外径を制御することが可能であった。ゼラチンの架橋時間を6時間とすることで、細胞培養条件下におけるファイバーの膨潤を防ぐことが可能であった。またゼラチンゲル内部および表面で血管構成細胞が伸展、増殖することが可能であった。以上の結果から、本手法を用いることで生体内の微小血管と類似の構造を有する血管様構造体の作製が可能であると考えられる。

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受賞者の所属
 

佐々木 寛人
名古屋大学大学院 工学研究科 化学・生物工学専攻 生物機能工学分野

受賞したポスターの研究内容
  継代培養による細胞品質劣化検出技術の比較と有効性
 

現在、自己細胞を培養して治療に用いる再生医療が先端医療機関にて提供され始めているが、高額な人件費が必要であることや安定した細胞品質を維持できないことから広く普及する段階に至っておらず、培養行程の効率化と品質管理の自動化が必須であると考えられている。本研究では細胞品質を定量評価し安定した品質の細胞を提供するための細胞品質劣化検出技術の開発を目指す。ヒト細胞の培養中の位相差画像から細胞の活性と相関が高いといわれる細胞の形態情報を抽出し、情報処理技術を用いて生産管理に重要な形態因子の組み合わせとモデル化を行った。さらに様々な生物学的実験との比較を行い、その有用性を検証した。細胞の画像解析の結果、細胞劣化度を85.0%の精度で予測するモデルの構築をし、生物学的検証では検出できない細胞品質劣化が検出可能であることが示唆された。生物情報処理技術の考え方の導入により、画像解析による細胞品質の定量的評価システム構築が可能となり、今後は研究が盛んに行われている幹細胞研究への応用が期待される。

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受賞者の所属
 

多田 裕
九州大学大学院工学府 化学システムエ学専攻

受賞したポスターの研究内容
  酵素によるシグナル増幅能を利用した高感度DNAプローブの創製
 

個体特性を決定する遺伝情報は、生命現象解明や病気治療に有益な情報を私たちに与える。この遺伝情報は、DNAを媒体とした特異的な塩基配列に保存されており、シグナル分子を結合したDNAの相補鎖認識能を利用することで、標的遺伝子の検出が行われている。主要な遺伝子解析技術に、ゲノムサザンプロットがあげられるが、標的遺伝子が微量であるため、高感度な検出技術が必要とされる。そのため、従来は高感度検出が可能な放射性同位体が利用されてきたが、安全性や使用期限の問題がある。そこで、本研究では酵素によるシグナル増幅能を利用した新規高感度DNAプローブの作製を試みた。戦略としては、アルキン基を化学的手法で酵素に複数導入し、またアジド修飾dUTPをポリメラーゼの基質誤認識を利用してDNAに複数導入する。そして、これらをClick chemistiyを利用し架橋させることで、DNAと酵素が複数架橋したプローブの作製を試みた。本戦略では、一つのプローブ中の酵素数の増加による高感度化、遺伝子と結合するDNAの多価効果による見かけの親和力の上昇を見込んでいる。本研究のプローブを用い、相補鎖特異的なDNA検出実験を行った結果、市販キットと同等の検出限界10pgを示すことが分かった。

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受賞者の所属
 

田原 義朗
九州大学大学院工学府 化学システムエ学専攻

受賞したポスターの研究内容
  新規オクタアルギニン修飾キャリアによる遺伝子デリバリー
 

我々は独白のエマルション化技術を利用して、プラスミドDNAの周りを界面活性剤で二重に被覆した"新規ダブルコーティング型キャリア"の開発を行った。本発表では基礎的な内容に加え、プラスミドDNAを封入したオクタアルギニン修飾ダブルコーティング型キャリアによる遺伝子デリバリーについて紹介を行った。遺伝子デリバリーの分野において、非ウイルスベクターの創製は、安全性、免疫原性、安定性や生産性、利用の簡便性などの観点から、今後の遺伝子治療において重要な役割を果たすと考えられる。しかしながら既存の非ウイルスベクターは全て、カチオン性の物質で主に構成され、静電相互作用によってアニオン性のDNAを封入している。この場合、そのままでは血清耐性がなくin vivoでの利用が困難である場合や、さらなる機能化に限界がある場合がほとんどである。そこで本研究では、独自のエマルション化技術を利用した"新規ダブルコーティング型キャリア"を提案した。本キャリアの特徴はエマルションを凍結乾燥するという手法によってDNAを封入しており、今までできなかった新しい発想による細胞への遺伝子デリバリーや発現制御が可能になると考えられる。本発表では新規キャリアにオクタアルギニンを修飾し、ルシフェラーゼの遺伝子発現に成功した。

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受賞者の所属
 

漁 慎太郎
神戸大学大学院 工学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  ガラクトース転写誘導系を利用した酵母リガンド検出系の開発
 

創薬分野において、薬剤侯補物質のスクリーニングは新薬開発の生命線とされる。FDA承認医薬品の約3割がG蛋白質共役型受容体(GPCR)に作用することから、GPCRを標的とした薬剤侯補物質(リガンド)に対する迅速かつ簡便なスクリーニング技術を確立することが望まれている。そのための手法として近年、酵母を用いたヒトGPCR解析手法が注目されている。これまでに蛍光タンパク質をレポーターとしたリガンド検出技術が開発されており、フローサイトメーターを利用したリガンドスクリーニングへの応用が試行されてきた。しかし従来の技術ではレポーター強度が不充分であるため、正確かつ高効率なスクリーニング技術は未だ確立されていない。そこで本研究では、強力なタンパク質発現系であるガラクトース転写誘導系の利用を試みた。ガラクトース転写誘導系を介することでリガンド応答的なシグナルが増幅されるため、高いレポーター強度の達成が期待される。酵母内在性のGPCRであるSte2をモデル系とした実験において、本法の有効性が証明された。今後この技術をヒトGPCR発現酵母へ応用し、リガンドスクリーニング技術を開発することで創薬基盤技術を確立していきたいと考えている。

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