「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

  平成23年9月14日〜16日に名古屋工業大学にて開催されました、化学工学会第43回秋季大会において、平成23年度バイオ部会学生ポスター発表会が開催されました。その結果、全件の応募者より下記の8名がバイオ部会優秀ポスター賞として選ばれましたことを、ここにご報告致します。
 尚、下記8名の受賞者より、簡単にではございますが、研究の紹介をして頂きました。

受賞者:

九州大学大学院 安部祐子
『Solid-in-Oil-in-Water化技術を利用した親水性薬物の経皮デリバリーシステムの創製』

山口大学大学院 飯盛遊
『クロマトグラフィーカラム上での固相PEG化反応』

九州大学大学院 今村佳奈
『S/O化技術を利用した経皮ワクチンの創製』

名古屋大学大学院 佐々木寛人
『画像情報処理のための周辺工学技術の最適化』

九州大学大学院 嶋田如水
『合成DNAをテンプレートとしたタンパク質の複合・連結化プロセスの開発』

九州大学大学院 堀江正信
『遺伝子改変STO細胞を用いた多能性幹細胞の未分化維持培養』

神戸大学大学院 宮崎貴也
『放線菌が有する炭素源資化能力を生かしたタンパク質の大量分泌生産』

九州大学大学院 山本泰徳
『磁力を用いた細胞積層技術による三次元筋組織の作製』


受賞者の所属
 

安倍 祐子
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Solid-in-Oil-in-Water化技術を利用した親水性薬物の経皮デリバリーシステムの創製
  皮膚を通して薬物を投与する「経皮デリバリーシステム」は、これまで生分解性のために経口投与が困難であった薬物の注射に代わる新たな投与法として、近年注目されている。しかしながら、我々の皮膚は疎水性の高いバリア能を有する角層に覆われているため、親水性薬物の経皮デリバリーは非常に困難である。そこで本研究では親水性薬物を界面活性剤で被覆し、O/Wエマルションの内油相中に親水性薬物を分散させるSolid-in-Oil-in-Water(S/O/W)化に着目した。本手法により親水性薬物をエマルションの内油相中に封入できるため、油相と角層との親和性の高さを利用し、親水性薬物の皮膚浸透性向上が期待できる。
今回はモデル薬物としてFITCラベル化デキストラン(FD)を封入したS/O/Wを調製し、その安定性および皮膚浸透性を評価した。その結果、親水性界面活性剤の濃度を減少させることで、FDの漏洩を抑制することに成功した。また、分子量10kDaのFDを封入したS/O/Wクリームは、水溶液ゲルと比較して高い皮膚浸透性を有することが確認された。これは、皮膚上にS/O/Wを添加すると、外水相の蒸発後に皮膚表面に油膜が形成され、この油膜の経皮吸収促進効果によって皮膚浸透が進んだものと考えられる。

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受賞者の所属
 

飯盛 遊
山口大学大学院 医学系研究科 応用分子生命科学系専攻

受賞したポスターの研究内容
  クロマトグラフィー上での固相PEG化反応
  PEG化タンパク質は生体安定性が高く、副作用の低い優れた医薬品である。従来のPEG化タンパク質生成反応では修飾位置、修飾数の異なる複数のPEG化タンパク質異性体が副生成物として生成する。このため医薬品として認められるMono-PEG化タンパク質を精製するときには、煩雑な分離操作が必要となり問題となっている。そこで本研究ではランダムなPEG化反応を制御するためにイオン交換クロマトグラフィー(IEC)担体を固相反応場とする、固相PEG化反応操作の検討を行った。モデルタンパク質はHen egg white lysozyme (HEL)を使用した。固相反応はNativeHELを吸着させたIECカラムに活性化PEG試薬を循環させることで行った。 HELには6つのlysine残基とN末端の計7つのPEG修飾サイトが存在する。そのため液相反応ではランダムにPEG化反応が進行すると予想され、解析の結果Mono-PEG化HELの他に複数の副生成物が確認された。一方、固相反応ではNativeHEL以外にMono-PEG化HELのみ検出された。これはHEL中のlysine残基がIEC担体との吸着に使用され、修飾が阻害されたためと考えられた。これらの結果より、固相反応を行えば副成物の生成を抑制できること、またIECを固相反応場として用いることでタンパク質のPEG修飾サイトを立体的に制御できる可能性があることが示唆された。本研究結果から、目的物質のみ生成でき反応と分離を連続的に行える固相PEG化反応を用いることでPEG化タンパク質製造コストの大幅な削減が可能と期待できる。

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受賞者の所属
 

今村 佳奈
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  S/O化技術を利用した経皮ワクチンの創製
 

経皮ワクチンは、皮膚からワクチン抗原を吸収させて免疫化を行う方法であり、注射に代わる簡便性・安全性・非侵襲性に優れた手法として注目されている。しかし、皮膚最外層の角層は非常に疎水性が高いため、親水性のワクチン抗原を皮膚内部の免疫細胞へ送達することは一般に困難である。そこで我々は、独自のエマルション化技術であるSolid-in-Oil化技術の導入を試みた。 S/O化技術とは、親水性薬剤を疎水性界面活性剤で被覆することにより、油中にナノレベルで分散させる技術である。これまで当研究室では、抗原のS/O化により水溶液・W/Oエマルションと比較して、高い抗原特異的な免疫応答の誘導に成功している。本研究では、より高効率な経皮ワクチンの開発を目指し、経皮免疫製剤として最適なS/O化条件の探索を行った。今回は、Ovalbuminをモデル抗原とし、2種類のショ糖脂肪酸エステル(ER-290、 L-195)を用いて界面活性剤の種類および濃度の検討を行った。その結果、ER-290と比較して、側鎖の疎水基が短いL-195を用いたS/OでOVAの皮膚内部への浸透が見られ、経皮免疫後に高いOVA特異的な抗体産生を誘導できることが明らかとなった。

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受賞者の所属
 

佐々木 寛人
名古屋大学大学院 工学研究科 生物機能工学分野

受賞したポスターの研究内容
  画像情報処理のための周辺工学技術の最適化
  現在、再生医療の実現に向けて、細胞培養工程の効率化と品質管理の自動化が必須であると考えられている。本研究室では、培養熟練者の感覚とバイオインフォマティクス技術の融合により、細胞の形態情報に基づいて活性や生育状況を非破壊で判断する技術を考案した。しかし、細胞はサンプル間のバラつきが大きく画像撮影操作はピントや明るさの設定など感覚的な判断に依存する操作が多いため、画像解析によって安定したデータを得ることは非常に難しいという現状があった。
そこで本研究では、情報解析がデータに求める条件の最適化が重要であると考え、「細胞播種/培養」「画像撮影」「細胞品質評価」を始めとする全工程を見通した周辺工学技術の初期条件の最適化を行った。
具体的には、細胞播種という非常に不安定な工程において、従来よりも16倍均一に操作を行うことができるデバイスを開発し、その結果、輝度情報の安定した画像の取得方法が確立できた。今後はデータ取得や細胞品質評価方法の整備によって感覚的な操作をすべてプロトコル化し、ハードウェアとソフトウェアを有機的に融合させることができれば、安定かつ汎用性が高い細胞画像解析を行うことが可能となるのではないかと考えられる。

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受賞者の所属
 

島田 如水
九州大学大学院 工学府 化学システムエ学専攻

受賞したポスターの研究内容
  合成DNAをテンプレートとしたタンパク質の複合・連結化プロセスの開発
 

タンパク質同士を連結させることで、タンパク質の機能強化や機能付与が可能となり、タンパク質機能の幅広い応用が期待できる。本研究では、合成DNAをテンプレートとした新たなタンパク質連結プロセスの開発を目的としている。DNAは高い相補鎖認識特性を示すだけでなく、抗体のような分子認識特性をも有する(アプタマー)。そこで、まずDNAの塩基配列を設計し、最終的なタンパク質の配列設計を行った鋳型DNA鎖とアプタマーを含むDNA鎖を調製し、タンパク質連結化の足場DNAを調製した。対象タンパク質の添加により、タンパク質とアプタマーは相互作用し、対象タンパク質が足場DNA上に配列する。足場DNA上ではタンパク質同士が物理的に近接するように設計したため、架橋剤の添加により、タンパク質連結体が作製できる。
トロンビンを対象タンパク質として、トロンビン連結体の作製を行った結果、足場DNAによって、効率的にトロンビンを連結させることに成功した。このとき、トロンビンは活性を保持した状態で連結していた。また、トロンビンとIgEという異種タンパク質の連結化にも成功し、抗体修飾を含む様々なタンパク質連結体への応用の可能性が示唆された。

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受賞者の所属
 

堀江 正信
九州大学大学院工学府 化学システムエ学専攻

受賞したポスターの研究内容
  遺伝子改変STO細胞を用いた多能性幹細胞の未分化維持培養
 

胚性幹細胞(ES細胞)や人工的に作製した多能性幹細胞(iPS細胞)は、通常フィーダー細胞とよばれる栄養供給細胞の上で白血病阻害因子(LIF)を添加して培養することで未分化が維持される。これまで、これら幹細胞のフィーダー細胞として、マウス胎児由来の線維芽細胞(MEF)が主に用いられているが、取得するたびにマウスを犠牲にする必要があり、増殖にも限界があるといった問題があり、有効な代替法の開発が必要となっている。本研究では、E-カドヘリン遺伝子とLIF遺伝子をSTO細胞に導入することで、 E-カドヘリンとLIFを共発現する遺伝子導入フィーダー細胞を作製し、LIF添加不要でMEFと同等の未分化維持能力を持つ無限増殖可能なフィーダー細胞の樹立を行った。樹立した細胞をフィーダー細胞として培養したES/iPS細胞は、 MEF細胞をフィーダー細胞として培養した場合と同様に未分化および多能性を維持していた。このフィーダー細胞の開発により、より容易に大量のES/iPS細胞の調製が可能になることが期待される。

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受賞者の所属
 

宮崎 貴也
神戸大学大学院 工学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  放線菌が有する炭素源資化能力を生かしたタンパク質の大量分泌生産
 

放線菌Streptomyces属は土壌に大量に存在するグラム陽性菌の一種であり、酵素や化合物などの有用物質生産能力や自身の保有する糖化酵素によるバイオマス糖化能力を有している。本研究室ではこれまでに放線菌の持つ有用物質生産能力に着目しStreptomyces lividansを用いて工業的に重要な酵素であるトランスグルタミナーゼ(MTG)の分泌生産に成功している。このとき炭素源としてグルコースを用いていたが、さらなる実用化に向けたMTG生産法確立のために、本研究では様々な炭素源からのMTG生産を検討した。今回検討した炭素源はグルコースに比べて市場的利用価値の低いキシロース、バイオディーゼル燃料生産時の副産物であるグリセロール、高分子バイオマスであるデンプン、キシランの4種類である。その結果、炭素源にキシロースを用いることで最大530mg/LのMTGの分泌生産量を得ることに成功し、この生産量はグルコースを用いた時と比べて約2.5倍の向上となった。また、グリセロールやバイオマス資源であるデンプン、キシランからの発酵にでも従来以上のMTGの分泌生産量を得ることに成功し、活性も確認することができた。以上より、S. lividansの様々な炭素源資化能力を有用タンパク質生産へと応用することに成功した。

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受賞者の所属
 

山本 泰徳
九州大学大学院 システム生命科学府 システム生命科学専攻

受賞したポスターの研究内容
 

磁力を用いた細胞積層技術による三次元筋組織の作製

 

筋芽細胞を用いて作製した筋組織は、再生医療分野への応用が期待される。これまでに我々は、三次元筋組織構築法として、機能性磁性ナノ粒子(Magnetite Cationic Liposome, MCL)で標識した細胞を磁石で集積し、筋分化誘導培地で培養することで、高密度の細胞が特定方向に配向した誘導筋組織の作製に成功している。しかしながら、一定の厚さ以上の組織を作製する場合、組織中心部への酸素・栄養供給が阻害され、細胞が壊死することが問題となっている。そこで本研究では、MCLで磁気標識した筋芽細胞を、中空糸を規則的に配列した培養空間内に磁力を用いて充填し環流培養を行うことで、組織中に十分に酸素、栄養が供給可能なバイオリアクターを開発した。磁気標識した細胞を、中空糸を規則的に配置したデバイス内に細胞を播種して磁力を用いて筋組織を構築した後に環流培養を行うことで、グルコースが枯渇することなく十分に栄養を供給しながら培養することができた。また、組織内部の細胞が高密度で生存可能であった。分化誘導培地を用いて環流培養を行った結果、組織内部の細胞は筋管細胞へ分化した。これらのことから、本システムは、筋組織のラージスケールの培養法として有効であることがわかった。

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