「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

 化学工学会第45回秋季大会(平成25年9月16日〜18日於岡山大学)において開催された平成25年度バイオ部会学生ポスター発表会で、下記の6名の方々が優秀ポスター賞を受賞されました。
 尚、下記6名の受賞者より、簡単にではございますが、研究の紹介をして頂きました。

受賞者:

大阪大学大学院 石上 喬晃
『リポソーム膜の不斉認識における動的挙動の検討』

九州大学大学院 石山 龍太郎
『効果的ながん治療を目的とした新規抗がん剤キャリアの開発』

九州大学大学院 三分一 孝則
『高肝機能誘導型遺伝子改変ヘパトーマ細胞における遺伝子発現解析』

神戸大学大学院 中村 泰之
『ヒト受容体リガンド探索のための酵母蛍光レポーター高感度アッセイシステムの開発とその応用』

九州大学大学院 水町 秀之
『ECM模倣基材と薄層ゲル培養法を併用した新規神経系細胞三次元培養法の開発』

名古屋大学大学院 山本 修平
『磁気細胞パターニング法を用いたがん細胞の薬剤応答評価法の構築』


受賞者の所属
 

石上 喬晃
大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻

受賞したポスターの研究内容
 

リポソーム膜の不斉認識における動的挙動の検討

  キラル生体分子群が形成する自己組織系を、不斉認識・変換の「場」として活用する「Bio-Inspired プロセス」が注目されつつある。本研究では、リポソーム膜の不斉ろ過法を用いてアミノ酸の1種であるトリプトファン(Trp)のリポソーム膜への吸着を検討した。48 時間の混合によりL 体の吸着率が97%まで達したのに対し、D 体の吸着率は0。4%に留まり、非常に高い不斉選択性が確認された。この不斉認識能について他のアミノ酸9種での検討や、pH条件を変化させたTrpでの検討により、静電相互作用、疎水性相互作用、そして、水素結合等の複合的な寄与が影響する事が示唆された。次に各種蛍光プローブ(ANS、TNS)による膜極性解析を行い、24時間の混合時に膜表層部分での極性低下が確認され、また、48 時間混合時においてL-Trp の吸着がLangmuir 吸着等温式に非常に良い相関を示す事を確認した。以上の知見より、リポソーム膜表層で極性等の特性変化が徐々に誘導され、単分子層的に不斉認識サイトを形成しながら吸着が進行するという、逐次・協奏型の認識機構が示唆された。今後、リポソーム膜を基盤材料として活用した、新規なキラルプロセスの設計開発が期待される。

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受賞者の所属
 

石山 龍太郎
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  効果的ながん治療を目的とした新規抗がん剤キャリアの開発
  ドラッグデリバリーシステム(DDS)は、薬物をキャリアに封入したり、薬物自身を化学物質で修飾したりすることで、薬物の血中滞留性向上、病変部位へのターゲティング、薬物放出制御などの機能化を行い、薬物の効果を最大限に引き出すことを目的とする研究である。特に抗がん剤の副作用を抑え、効果的に働かせるために様々な抗がん剤キャリアが開発されている。本研究では、新規抗がん剤キャリアであるダブルコーティングキャリア(DC)の開発に挑んだ。DC は異なる二種類の界面活性剤で水溶性の物質を包括した、ちょうど内水相の存在しないリポソームのような会合体である。DC 内に抗がん剤シスプラチン(CDDP)を封入したDC を調製し、それをマウスに投与した際のがん組織における抗がん剤の蓄積量を検討した。その結果、DC を構成する界面活性剤の割合を調整することで粒径が約200 nm のCDDP 封入DC の調製に成功した。CDDP 封入DC を担がんマウスに投与すると、そのままCDDP を投与した場合に比べて抗がん剤ががんに約1.5 倍多く蓄積した。これは、特定のサイズ(数十nm?200 nm)を有する物質ががん特異的に蓄積する特性であるEPR 効果がDC により現れたためと考えられる。

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受賞者の所属
 

三分一 孝則
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  高肝機能誘導型遺伝子改変ヘパトーマ細胞における遺伝子発現解析
  肝臓の主細胞である肝実質細胞は、肝臓における機能のほとんどを担う非常に高度に分化した細胞であり、バイオ人工肝臓システムや肝臓の基礎研究における細胞源として広く用いられている。これまでに我々は、肝機能発現を転写レベルで調節ており、転写因子遺伝子群を薬剤誘導型の発現ユニットとして細胞に導入することで、高い肝機能発現を誘導可能なヘパトーマ細胞株(Hepa8F5)の樹立に成功している。本研究では、導入した8 種類の肝特異的転写因子群の発現および肝機能関連遺伝子の発現の詳細な解析を行った。肝機能誘導培養を行ったHepa8F5 細胞において、導入した8 種類の肝特異的転写因子全てが顕著に高いレベルで発現している様子が観察された。一方、肝機能関連遺伝子の発現を評価したところ、薬剤存在下で培養したHepa8F5 細胞において、肝特異的な分泌タンパク質であるアルブミンなど評価した11 種類全ての肝機能関連遺伝子の発現が顕著に増加していることがわかった。これらの結果から、肝特異的転写因子の過剰発現により、肝関連遺伝子に関与する多様な肝機能の発現を顕著に向上させることが示唆された。

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受賞者の所属
 

中村 泰之
神戸大学大学院 工学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  ヒト受容体リガンド探索のための酵母蛍光レポーター高感度アッセイシステムの開発とその応用
  膜蛋白質の中で最大のファミリーを形成しているG 蛋白質共役型受容体(GPCR)は、様々な生理作用を担っており、医薬・製薬業界において主要なターゲットとなっている。そのためGPCRの機能を調節するリガンドを簡便に検出できる系は新薬開発において強力なツールとして注目されている。GPCR にリガンドが反応すると細胞内シグナル伝達系が活性化されるため、シグナルに応答して緑色蛍光蛋白質(GFP)が発現するよう酵母の遺伝子を改変することで、蛍光によってリガンドを検出・同定することが可能である。さらに、アンカー蛋白質と融合したペプチド性リガンドをGPCR とともに発現させることで、リガンドを酵母細胞表層に提示し、1 細胞の中でシグナル応答を引き起こすことができる。このリガンド表層提示を用いた方法は、フローサイトメーターによる1細胞スクリーニングへの応用が期待されているが、従来系においてリガンドに反応した細胞の蛍光強度が弱く、スクリーニングを行うのに不充分であった。そこでレポーターとして、4 量体構造を取るGFP(ZsGreen)を用いて系の検出感度を向上させた。さらにニューロテンシンのアナログを提示させても受容体の活性化検出に成功したことから、本系はペプチド性リガンドとしてライブラリ遺伝子を導入することにより、ヒトGPCRの新規リガンドを同定するのに非常に有力な手法として期待される。

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受賞者の所属
 

水町 秀之
九州大学大学院 工学府 物質プロセス工学専攻

受賞したポスターの研・・E燉e
  ECM模倣基材と薄層ゲル培養法を併用した新規神経系細胞三次元培養法の開発
  近年、様々な化学物質の神経毒性評価を目的とした動物実験の代替技術として、神経系細胞の生体外培養が行われている。しかし、神経系細胞の培養は非生理的な単層培養で行われるのが一般的であり、正確な評価のためには生体内の神経組織を模倣した三次元培養系が望ましい。そこで本研究では細胞外マトリックス(ECM)模倣基材と、その場観察/評価が容易な薄層ゲル培養系を開発し、これらを併用した新規神経系三次元培養法の創出を目指した。まず、化学架橋剤によってヘパリンをコラーゲンに導入し、ECM 模倣基材を作製した。本基材のゲルに塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加し、神経幹細胞を包埋培養したところ、コラーゲンゲルを用いた場合と比較して細胞の増殖性が大きく向上した。これにより、本基材が神経系ECM と同様のbFGF 固定化能を有することが確認できた。続いて、厚さ0.1 mm程度の薄層コラーゲンゲル中に神経幹細胞を包埋し培養した後に、免疫蛍光染色によるその場観察を行ったところ、神経系三次元ネットワーク構築が確認され、さらに一般的な厚さ2 mm程度のゲルと比較して遥かに観察が容易であることを確認した。以上より、生体内模倣三次元環境を再現しつつも容易にその場観察が可能な培養系の構築が期待された。

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受賞者の所属
 

山本 修平
名古屋大学大学院 工学研究科 化学・生物工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  磁気細胞パターニング法を用いたがん細胞の薬剤応答評価法の構築
  近年がんに関する様々な発見により、新規抗がん剤の開発が広く求められている。我々はマグネタイト包埋リポソームによる細胞の磁化と剣山状鉄製デバイスを用いて、コラーゲンゲル中に細胞を3 次元的にパターニングする磁気細胞パターニング法を開発した。本手法で培養したがん細胞における抗がん剤の有効性評価法を標準化し、より汎用的な評価モデルを目指した。一般的な平板培養では、細胞は平面状の増殖形態だったが、本手法では細胞塊の形成が見られ、生体内に近い環境を提供できていることが示唆された。また位相差画像における細胞塊部分の面積は、複数のがん細胞種において細胞塊を構成する細胞数と相関することがわかり、面積を指標とした非破壊的・連続的な増殖評価が可能になった。抗がん剤添加時には平板培養よりも抗がん剤の有効濃度が大きく上昇した。また本手法のような細胞塊培養では、薬剤耐性を高めるMDR-1 の遺伝子発現が増加することも判明し、薬剤感受性が異なる原因の一端を明らかにすることができた。以上のように、形態学的、分子生物学的に検証を行うことで、本手法における薬剤応答の非破壊的in vitro 評価モデルとして本手法の妥当性を検証できた。

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