「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

 化学工学会第46 回秋季大会(平成26 年9 月17 日〜19 日於九州大学)において開催された平成26 年度バイオ部会学生ポスター発表会で、下記の8 名の方々が優秀ポスター賞を受賞されました。

バイオ部会優秀ポスター賞受賞者(50音順):

大野 恭平 (おおの きょうへい)
『胚様体間相互作用がマウスES 細胞特性に与える効果』

佐々木 寛人 (ささき ひろと)
『幹細胞品質管理に向けた画像解析による細胞形態プロファイリング』

佐藤 智詠 (さとう ともなが)
『低酸素応答型細胞センサーの開発』

中川 慶之 (なかがわ よしゆき)
『ポリアクリル酸グラフトヒアルロン酸カルシウム塩の腹膜癒着防止効果』

西村 裕介 (にしむら ゆうすけ)
『異なる培養条件下の発生腎におけるin vitro 及びin vivo の血管構築』

平川 祐也 (ひらかわ ゆうや)
『Solid-in-Oil 化技術を利用した効果的な経皮がん免疫療法の開発』

三宅 祐輝 (みやけ ゆうき)
『味覚嗜好性に関するアメフラシ中枢神経応答の蛍光膜電位イメージングによる解析』

本村 考平 (もとむら こうへい)
『培地難溶性物質に対する新規可溶化剤の開発』


受賞者の所属
 

大野 恭平
北九州市立大学大学院 国際環境工学研究科

受賞したポスターの研究内容
 

胚様体間相互作用がマウスES 細胞特性に与える効果

  幹細胞(ES/iPS 細胞)から各種機能性細胞への分化誘導過程では、胚様体と呼ばれる細胞集合体を形成させ、分化誘導刺激を行う手法が一般的である。ここで、胚様体は細胞同士が密に集合した細胞集合体であることから、その内部では物質の濃度分布などが生じ、その結果として胚様体サイズ依存的に幹細胞の分化特性が異なることが知られている。一方、培養系内に多数の胚様体が存在する場合、隣接する胚様体間では干渉作用が発生することが考えられる。この興味を解明するために、本研究ではマイクロパターニング培養を利用して、胚様体間干渉作用が発生する距離やその影響について評価した。マイクロコンタクトプリンティング法を利用して、胚様体間距離が異なるように設計した培養チップを作製し、マウスES 胚様体の培養を行った結果、その距離が少なくとも1000μm 以下になるとチップ周辺部と内部に位置する胚様体の増殖性や分化特性に差異が生じることを明らかにした。また、その影響は距離依存的であり、例えば胚様体距離が500μmではより顕著な差が現れた。さらに、このような干渉作用が発生した場合・A肝細胞系への分化誘導が促進される傾向が見られ、この現象には低酸素環境の形成が関与していることが示唆された。これらの結果は、幹細胞研究における重要な知見となりうることが期待できる。

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受賞者の所属
 

佐々木 寛人
名古屋大学大学院 化学・生物工学科

受賞したポスターの研究内容
  幹細胞品質管理に向けた画像解析による細胞形態プロファイリング
  再生医療や創薬探索研究において、間葉系幹細胞やiPS 細胞などの幹細胞に対する重要度は次第に高まっている。近年、学術領域として幹細胞研究は目覚ましく成熟している一方で、品質評価手法や細胞の安定供給など、実用的な観点における課題は未だ山積しており、画期的なブレイクスルーとなる技術は開発されていない。そこで我々は、画像情報解析に基づく細胞形態の定量評価によって、「培養熟練者の目利きの自動化」を視野に入れた非破壊的な細胞品質管理手法の構築を目指している。今回は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hBMSCs)をモデル細胞とし、細胞品質に関連する培地成分および培養安定化のためのタンパク質および小分子化合物の影響について定量的に評価する画像プロファイリング法の構築を目指した。結果より、細胞形態特徴量を有効に活用することによって、細胞の培養状態をプロファイリングし、培養条件を数値定量的に比較できる可能性が示唆された。本成果は、これまで細胞増殖のみなどが比較対象データであった培地や化合物に対する細胞応答評価において、新しい評価基準を設けられる技術として期待される。

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受賞者の所属
 

佐藤 智詠
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  低酸素応答型細胞センサーの開発
  細胞は外部環境を感知し、素早く応答することで自身の生命活動を維持している。そのため、細胞を用いたセンサーは外部環境からのストレスに対して、高感度かつ迅速な応答を示す生きたセンサーとしての利用が可能である。現在、患者から採取した細胞を生体外で培養し、機能的な組織を構築した後に患者に移植する組織工学が注目されている。組織工学的手法で作製した三次元組織内部では低酸素状態による細胞死が観察され、機能的な三次元組織の作製が困難である。本研究では、人工三次元組織内で働く低酸素応答型細胞センサー構築のために、低酸素応答型遺伝子発現システムを細胞ゲノムに遺伝子導入し、低酸素応答センサー細胞株の取得を行った。低酸素応答型遺伝子発現システムは低酸素応答性RTP801 プロモーター、人工遺伝子発現増幅システムであるTet-Off システム、酸素依存的分解ドメインにより構成した。この遺伝子配列をレンチウイルスベクターにより、HeLa 細胞に感染させ、細胞株の樹立を行った。取得した4 つの細胞株は酸素濃度依存的な応答を示した。今後、本遺伝子発現システムを搭載した細胞を用いて、三次元組織での培養を行い、詳細な細胞センサーの評価を行う予定である。

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受賞者の所属
 

中川 慶之
東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  ポリアクリル酸グラフトヒアルロン酸カルシウム塩の腹膜癒着防止効果
  現在、臨床では術後癒着の低減目的でSeprafilm やInterceed 等のシート状の癒着防止材が使用されている。しかし、肝切除手術のように深刻な腹膜癒着を形成する場合、現在上市されている癒着防止材では十分な癒着防止効果が得られないことが知られている。我々は過去の研究において、ポリアクリル酸(PAA)をヒアルロン酸(HA)からグラフトした新規HA 誘導体(HA-g-PAA)の合成に成功している。HA-g-PAA は高い安全性が期待されるカルシウムイオン(Ca2+)による架橋形成で瞬時に固体(HA-g-PAA/Ca2+)を生成し、インジェクタブル材料としての機能を実現した。本研究では、この新規材料を用いた腹膜癒着防止材の開発を目指し、HA-g-PAAの分解挙動の解明とHA-g-PAA/Ca2+の腹膜癒着防止効果の評価を行った。その結果、HA-g-PAAはリパーゼ存在下でPAA鎖が解離し、腹腔中で酵素加水分解を受けて腎排泄可能な分子量(60 kDa 以下)まで分解可能であることが示唆された。また、深刻な炎症を生じる癒着モデルであるラット肝切除癒着モデルにおいてHA-g-PAA/Ca2+による癒着の低減が認められた。

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受賞者の所属
 

西村 裕介
筑波大学大学院 生命環境科学研究科

受賞したポスターの研究内容
  異なる培養条件下の発生腎におけるin vitro 及びin vivo の血管構築
  腎血管網を再構築するには、発生機構を再現する必要性がある。腎血管の発生機構にはvasuculogenesis とangiogenesis の2 説がある。前者は発生腎内にhemangioblastと呼ばれる血球血管芽細胞が分化し、腎血管を形成する。後者は既存の血管から伸長、分岐により血管を形成する。本研究ではin vitro 系(vasculogenesis)とin vivo系(angiogenesis)の方法により複雑な血管網と成熟糸球体の形成が可能なのかを検討した。in vitro 系では三つの培養系、即ち、液性因子無添加、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)添加、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)添加系を用いた。どちらの培養系でも培養した発生腎が分化し、ネフロン前駆体、微小血管、糸球体の形成が観測されたが、成熟糸球体の形成は液性因子添加系のみで観察された。しかし、複雑な血管網が形成されなかった。3 日間培養した発生腎を腸間膜血管へ移植するin vivo 系の結果では、移植3週間後、大血管侵入及び糸球体の成熟が現れた。これらの結果により、液性因子添加のみのvasculogenesis よりも大血管由来のangiogenesis の方が複雑な血管網形成に必要であることを示唆した。

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受賞者の所属
 

平川 祐也
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Solid-in-Oil 化技術を利用した効果的な経皮がん免疫療法の開発
  がん免疫療法とは、がんの目印となる抗原を体内の免疫細胞に記憶させることでがんに対する免疫力を高める治療法である。本研究では、強力に免疫を誘導する皮膚表層近くの免疫細胞に着目した。この細胞は皮膚表面の極めて近傍に存在するために、皮膚表面から抗原を浸透させる経皮投与法は、非常に有効であると期待される。しかし、皮膚最外層の角層は、疎水性のバリアとして働くため、親水性抗原の浸透は妨げられる。そこで、親水性物質を疎水性の界面活性剤で被覆することで、油中にナノレベルで分散させるSolid-in-Oil(S/O)化技術の利用を試みた。この技術により抗原の皮膚浸透性を向上させ、経皮による効果的かつ簡便ながん免疫療法の開発を目指した。モデル抗原である卵白アルブミン(OVA)を封入したS/O 製剤を調製しモデル皮膚に塗布したところ、水溶液と比較してOVA の皮膚浸透性が大きく向上することが確かめられた。さらに、S/O 製剤を耳に塗布することで免疫化を行ったマウスにOVA 発現がん細胞を植付けたところ、腫瘍成長の抑制効果が見られた。以上の結果から、S/O 化技術を用いることで経皮的に効果的ながん免疫を誘導可能であることが示唆された。

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受賞者の所属
 

三宅 祐輝
芝浦工業大学大学院 理工学研究科 応用化学専攻

受賞したポスターの研究内容
  味覚嗜好性に関するアメフラシ中枢神経応答の蛍光膜電位イメージングによる解析
  味覚は、食べ物の取捨選択を決定する重要な感覚である。特に、有毒物を摂取した場合には即座に拒絶する必要があるなど、神経の応答速度は味覚を論じる上で重要である。このような神経応答速度を含めた味覚の機構解明は、味覚障害の治療法や調味料の開発への貢献が期待できる。この解析には、中枢神経系に局在する個々の神経細胞のシグナルを、多点的に検出可能な膜電位イメージングが有用だと考えられる。一方、腹側動物アメフラシは、餌となる海藻に対して明確な嗜好性を示す。本研究では、アメフラシが好むL-アスパラギン(L-Asn)、または拒絶を示すL-アスパラギン酸(L-Asp)を味覚刺激として投与し、口球神経節S クラスター領域内の細胞応答を膜電位イメージングにより検出した。その結果、L-Asp は同領域内の細胞をL-Asn よりも早く興奮させた。この嗜好性に応じたそれぞれの応答速度は、神経解析の従来法(微小電極法)を用いて算出した値と比べて差が見られなかった。膜電位イメージングは色素による細胞のダメージが深刻な場合が多く、得られた結果が何らかの攪乱を受けている場合がある。しかし本結果より、細胞の染色は味覚応答速度に影響を与えないことが示された。したがって、膜電位イメージングは、味覚の応答速度と嗜好の関係について重要な知見を与えることが期待できる。

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受賞者の所属
 

本村 考平
九州大学大学院 工学府 物質プロセス工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  培地難溶性物質に対する新規可溶化剤の開発
  近年、細胞培養は有用物質の生産や再生医療など多くの分野で活用される必要不可欠な技術となっている。細胞培養において目的に応じて様々な物質を培地に添加するが、必須脂肪酸やコレステロール、抗生物質といった添加物質が培地に難溶なことがある。さらに創薬等において培養評価のスクリーニングの対象となる薬剤が難溶なことも少なくない。これらの場合、一般的にエタノールやジメチルスルホキシドといった有機溶媒を用いて可溶化されているが、有機溶媒自体の細胞毒性や分化、機能発現への影響が懸念される。そこで本研究では生体適合性が高く、任意の官能基を導入可能なMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーに着目し、細胞に対する影響が少ない可溶化剤の開発を目的とした。MPC とn-ステアリルメタクリレートの共重合体(PMS)を作製し、可溶化能、細胞障害性について評価を行ったところ、PMSは複数の培地添加成分に対して良好な可溶化能を示し、他の候補物質よりも優れていた。また、可溶化剤として使用に十分な濃度のPMS を添加した条件においても肝特異的機能発現や神経幹細胞の増殖、分化への影響も確認されなかった。以上のことから培地難溶性物質に対する新規可溶化剤としての有効性が期待された。

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