「化学工学会秋季大会でのバイオ部会優秀ポスター賞受賞者」

 化学工学会第 47 回秋季大会(平成 27 年 9 月 9 日〜 11 日於北海道大学)において開催された平成 27 年度バイオ部会学生ポスター発表会で、下記の 7 名の方々が優秀ポスター賞を受賞されました。

バイオ部会優秀ポスター賞受賞者(50音順):

景岡 美穂 (かげおか みほ)
『シグナル分子の膜局在を利用したp53抑制タンパク質MDM2とその阻害ペプチドpDIの相互作用検出』

近藤 将禎 (こんどう まさよし)
『Thermobifida fusca由来シトクロムP450の電子伝達パートナーの探索』

澤田 光一 (さわだ こういち)
『自己組織化膜の還元脱離による酵素固定化用静電紡糸不織布のリサイクル』

椎葉 温 (しいば のどか)
『ニワトリ胚盤葉細胞の網羅的発現遺伝子解析による多能性幹細胞誘導因子の探索』

成富 文香 (なりとみ あやか)
『Solid-in-Oil化技術と免疫賦活アジュバントの併用による免疫誘導能の向上』

西村 裕介 (にしむら ゆうすけ)
『腎臓原基細胞を用いた腎組織の再構築』

吉村 知紗 (よしむら ちさ)
『毛髪再生能を有する毛包組織のバイオファブリケーション』


受賞者の所属
 

景岡 美穂
東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻

受賞したポスターの研究内容
 

シグナル分子の膜局在を利用したp53抑制タンパク質MDM2とその阻害ペプチドpDIの相互作用検出

  p53タンパク質は、様々なストレスに応答して細胞周期の停止やアポトーシスなどを誘導するがん抑制タンパク質であり、その機能はユビキチンリガーゼMDM2によって制御されている。MDM2の過剰な発現や活性化によるp53の機能抑制が癌化につながることから、近年MDM2とp53の相互作用を阻害するペプチドpDIが選択された。本研究では、当研究室で開発されたタンパク質間相互作用検出法により、細胞内でMDM2とpDIの相互作用を検出することを試みた。本系では、細胞内でのシグナル伝達を操作し、細胞増殖というアウトプットを指標として目的タンパク質間の相互作用を検出する。既往の報告で、Akt、またはSOSというシグナル伝達分子を人為的に細胞膜近傍に局在させると、それだけで生存、または増殖を誘導するシグナル伝達経路がそれぞれ活性化されることが知られていた。そこで、目的タンパク質間に相互作用がある場合にのみこれらの分子が細胞膜近傍に局在するよう設計し、細胞増殖を指標とした相互作用の検出を試みた。その結果、SOSを用いた場合に有意な細胞増殖が確認され、細胞内でMDM2とpDI間の相互作用を検出することに成功した。今後は本系をペプチドスクリーニング系へ応用できるか検証していく予定である。

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受賞者の所属
 

近藤 将禎
東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Thermobifida fusca由来シトクロムP450の電子伝達パートナーの探索
  シトクロムP450(P450)は位置・立体選択的に酸化反応を触媒することができるため、キラル化合物の合成への利用が期待されている。P450が活性を示すためには還元酵素と電子伝達タンパク質を介した電子伝達が必要である。しかし、これらのタンパク質はゲノム上に多数存在するため、パートナーの特定には多大な労力と時間がかかることがP450利用の問題点となっている。本研究ではヘテロ三量化タンパク質を利用した電子伝達パートナーの探索法を提案した。ヘテロ三量化タンパク質と融合させることにより、細胞抽出液を混合するだけで、P450、還元酵素、電子伝達タンパク質が分子レベルで近接した複合体を担体上に形成できる。その結果、電子伝達が可能な組み合わせではP450が酵素活性を示し、簡便なパートナー探索ができると考えられる。本研究ではThermobifida fusca由来の電子伝達タンパク質とそれを還元可能な還元酵素の組合せを見つけた。また、モデルP450システムにおいて。電子伝達タンパク質とP450の相互作用が還元酵素による電子伝達タンパク質の還元反応を阻害することを見出した。この阻害は電子伝達タンパク質とP450の相互作用の強さに依存したことから、還元酵素による電子伝達タンパク質の還元反応の低下を指標としてP450のパートナーを探索できることが示唆された。

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受賞者の所属
 

澤田 光一
大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻

受賞したポスターの研究内容
  自己組織化膜の還元脱離による酵素固定化用静電紡糸不織布のリサイクル
  静電紡糸不織布は多量の酵素を固定化可能な繊維状担体として注目されている.固定化酵素は担体を含め失活までの使用を想定されているが,酵素の失活後も担体が再利用できることが望ましい.そこで本研究では,酵素を固定した静電紡糸不織布を電気化学的にリサイクルする手法の開発を検討した.金メッキ静電紡糸不織布の作製と自己組織化単分子(SAM)膜の形成を行い,酵素を共有結合固定した後,電圧印加によりタンパク質固定SAM膜が脱離することを利用して,金メッキ不織布から酵素を脱離し不織布の再使用を検討した.酵素の固定と脱離を酵素活性測定およびX 線光電子分光法(XPS)による表面構造解析により評価した.電圧印加前後の酵素活性は酵素固定化SAM膜の脱離に伴い失われ,再固定および再脱離処理により回復,消失した.さらに,XPSにより酵素固定化SAM膜が電圧印加により脱離することが明らかとなった.また酵素固定化不織布を流通管型反応器に適用した結果,リサイクルの前後において流通反応における酵素活性の安定性に影響はないことが示された.これらの結果より,調製した静電紡糸不織布を電気化学的にリサイクルできることが示された.この手法により静電紡糸不織布を反応器から取り出すことなく酵素固定化担体としてリサイクルすることが可能になると期待される.

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受賞者の所属
 

椎葉 温
九州大学大学院 システム生命科学府 システム生命科学専攻

受賞したポスターの研究内容
  ニワトリ胚盤葉細胞の網羅的発現遺伝子解析による多能性幹細胞誘導因子の探索
  トランスジェニックニワトリは、次世代型の医薬品タンパク質生産システムとして期待されている。我々はこれまでにトランスジェニック鳥類を生体バイオリアクターとして、医薬品タンパク質を大量生産させるための技術開発を行ってきた。遺伝子導入法として用いてきたレトロウイルスベクターは、簡便な方法である反面、導入遺伝子サイズの限界や潜在的なリスクがある。そのため、多能性幹細胞をはじめとする培養細胞からのトランスジェニック個体の作出が望まれている。当研究室においても、生殖系列に分化可能なニワトリ多能性幹細胞の樹立を試みているが未だ得られていない。本研究では、ニワトリ多能性幹細胞の樹立のために、多能性が知られているニワトリ胚盤葉細胞 (CBC)における大規模シークエンサーやDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析から、ニワトリ多能性幹細胞誘導や維持に有用な因子の探索を行った。その結果、哺乳類の初期化因子として知られるいくつかの因子のうち、Sox2のファミリーにおいて2つ、Klf4のファミリーでは3つの因子がCBCにおいて高い発現量を示した。また、Oct4の代替因子として報告のあるNr5a2 (核受容体)のファミリーにおいても高発現している因子が存在した。これらの抽出された複数の因子は、ニワトリ多能性幹細胞誘導に効果的であるかもしれない。

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受賞者の所属
 

成富 文香
九州大学大学院 工学府 化学システム工学専攻

受賞したポスターの研究内容
  Solid-in-Oil化技術と免疫賦活アジュバントの併用による免疫誘導能の向上
  経皮ワクチンは、低侵襲性で安全かつ簡便であることから、注射の代替法として注目されている。しかし、多くのワクチン抗原は親水性である一方、皮膚は疎水性の角層で覆われているため、ワクチン抗原を皮膚内部へ浸透させるのは困難である。そこで、親水性物質を疎水性界面活性剤で被覆し、油中にナノ粒子として分散させるSolid-in-Oil (S/O)化技術に着目した。この技術によりワクチン抗原に疎水性を付与することで、皮膚浸透性の向上が期待される。本研究では、さらに高効率な経皮ワクチンを目指し、S/O化技術と、免疫系細胞を活性化させるアジュバントであるCpG DNAの併用を試みた。ワクチン抗原とCpG DNAを粒子中に内包したS/O製剤を調製し、マウスに塗布したところ、CpG DNA未添加の場合と比較して、ワクチン効果は約9倍向上した。また、CpG DNAの対照配列を含む、GpC DNAを用いて同様の実験を行った場合においても、ワクチン効果は約5倍向上した。GpC DNAは免疫賦活効果を持たないため、CpG DNAによるワクチン効果の向上は、免疫賦活効果に加え、皮膚中での粒子からの薬物放出能なども関わることが示唆された。

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受賞者の所属
 

西村 裕介
筑波大学大学院 生命環境科学研究科

受賞したポスターの研究内容
  腎臓原基細胞を用いた腎組織の再構築
  現在、腎不全においての治療法は透析と腎臓移植であるが、ドナー腎臓の供給は不足している。この問題を克服しようとして、注目されている方法は、iPS, ES細胞から腎臓を再生する方法である。しかし、iPS細胞を腎臓細胞に分化しても、最適な組織構築と移植法を樹立しなければいけない。そこで本研究は、マウス胎仔腎臓細胞から再構築したマウス由来腎臓原基を使用し、in vitro培養した後、同所性移植にて治療効果が最大限発揮できるような腎組織の再構築を目的とした。マウス胎仔から取り出した腎臓原基を単一細胞化し、低接着性ウェルにてスフェロイド化、さらに擬微小重力装置(RWV)にてスフェロイドを融合し、巨大化したスフェロイドの塊を形成した。単純にスフェロイド化した組織に比べ、尿管芽、ネフロン前駆体と糸球体様組織の他に、血管・糸球体等より複雑な組織が形成された。また、成体マウスの腎臓被膜下に同所性移植した結果、単純スフェロイド組織は生着したが、分化は見られなかった。しかし、巨大化したスフェロイドは生着、成長し、腎臓において重要なネフロンが再構築できた。この方法は、iPS・ES細胞応用に先駆的な知見を提供となりうることが期待できる。

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受賞者の所属
 

吉村 知紗
横浜国立大学 理工学部 化学生命系学科

受賞したポスターの研究内容
  毛髪再生能を有する毛包組織のバイオファブリケーション
  毛髪は生命の維持に直結するわけではないものの、個人の印象を大きく左右するため、老若男女問わず、その治療へのニーズは大きい。近年、毛髪疾患の最先端の治療として、生体外で毛髪を作り出す種となる毛包を再生し、それを移植する毛髪再生医療が注目されている。一般的に毛包は、胎児期において外胚葉由来の上皮系細胞と、中胚葉由来の間葉系細胞との相互作用により発生することが知られている。この発生過程を再現することにより、毛包器官の原基を作製し、これを移植することで毛包再生を目指した研究が盛んに進められている。しかし、数万本の毛髪を再生することを考えると、均一な毛包の原基を大量に作製する技術の確立が不可欠である。本研究では、独自のスフェロイド培養器を用いて、毛包器官の原基を均一かつ大量に作製し、これを移植することで、生体と同等の毛髪を再生させる技術の開発に取り組んだ。その結果、スフェロイド容器で大量に作製した毛包の原基は均一かつ安定に毛髪を再生させる能力を有することが示された。本手法は、毛髪再生医療実用化のための基盤技術になりうる。

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